古本

近ごろ、とある人物の評伝を読了した。 この夏、三条大橋のブックオフで購入し、積読していたものだ。 一人の芸術家の幼少期から晩年に至るまで、作品の変遷を追う。やや古い時代のものであるから、新聞記事や書簡なども頼りに輪郭が描き出される。 有名な作…

春か、秋か、

忘れられた春。 日常に鎖が掛かり、砂漠に放り出された。 砂漠を一人歩いて行くと、丸い月。 慣れた目で、影を追う。 今の心情は、春の気分か、秋の気分か。 澄んだ空は影一つなく、透明で青い。 雲すら浮かばず、己というものが吸収されてしまいそうだ。 交…

濃縮還元summer

梅雨はとうに明けたが、強い日差しと熱帯夜の波に晒されている。 お盆。ダレた心と未熟なやるせなさを持て余し、鴨川沿いを亡霊の如く彷徨していた。 太陽を照り返し、いのちを漲らせる草木が眩しい。白く輝く雲は体積を増し、壮大な王国を作り上げている。 …

夜の散歩

眠れない夜が続いている。 肉体的疲労もなく、募る不安や悩みばかりが夜を引き延ばす。日中は割り切っていても、夜になるとじわり思考が滲み出す。疲れているのに心は安らいでいないのか。瀬田川の藻に絡め取られたボートのごとく、重くなって進まない。日々…

ある日

吉田の山の片隅に 真っ赤な薔薇が咲いていた。 柔らかい、真紅の布を 折りたたんだような襞が誘惑する。 曇り空の下に燃え 風にも揺られず座っている。 さようなら。 野生のバラ。 実の成らない花はないけれど どうか きっと あの花は 僕の家に棲む蜘蛛のよ…

雨おどる

こうも雨つづきだと嫌になるね。 梅雨の時期になるとこんな言葉を聞くことが多い。 ジメジメして、洗濯物も乾かないし、外出したら濡れねずみ。日照時間の少ない土地では、鬱になりやすいとも言うから、晴れの方が心地よいのは明らかだろう。 ここ最近は各地…