ある日

吉田の山の片隅に

真っ赤な薔薇が咲いていた。

 

柔らかい、真紅の布を

折りたたんだような襞が誘惑する。

 

曇り空の下に燃え

風にも揺られず座っている。

 

さようなら。

野生のバラ。

 

実の成らない花はないけれど

どうか

 

 

きっと

あの花は

僕の家に棲む蜘蛛のように

 

ひそかに誰かを待ちつづけ

巣を張り

消える。

 

そして

残り香も

風にまぎれ

遠くへ流れてゆく。

 

今日はどこからか

墨のにおいがする。