2020-07-23 ある日 吉田の山の片隅に 真っ赤な薔薇が咲いていた。 柔らかい、真紅の布を 折りたたんだような襞が誘惑する。 曇り空の下に燃え 風にも揺られず座っている。 さようなら。 野生のバラ。 実の成らない花はないけれど どうか きっと あの花は 僕の家に棲む蜘蛛のように ひそかに誰かを待ちつづけ 巣を張り 消える。 そして 残り香も 風にまぎれ 遠くへ流れてゆく。 今日はどこからか 墨のにおいがする。